伊丹十三賞は、映画監督・エッセイスト・俳優など、幅広い分野で活躍した伊丹十三の遺業を記念して創設された文化賞です。2008年に創設され、2009年の第1回から、映画やテレビだけでなく、翻訳、エッセイ、編集、デザイン、音楽、インターネット番組など、多彩な表現活動を評価してきました。
2026年10月現在、第18回伊丹十三賞の受賞者は翻訳家・エッセイストの岸本佐知子です。選考の背景には、伊丹十三の妻であり、伊丹十三記念館の館長を務める宮本信子が示した「びっくりした」「面白い」「誰にでもわかる」という視点があります。創設の経緯から歴代受賞者、選考の仕組み、賞の評判まで、公式発表と過去の報道をもとに整理します。
【伊丹十三賞とは】2026年最新の受賞者と賞の特徴

伊丹十三賞は、伊丹十三が才能を発揮した分野で優れた実績を残した人に贈られる賞です。伊丹十三記念館の公式サイトでは、エッセイ、ノンフィクション、翻訳、編集、料理、映画、テレビ番組、CM、俳優、イラストレーション、デザインなどを授賞対象として挙げています。
主催は公益財団法人ITM伊丹記念財団、協力は株式会社伊丹プロダクションです。正賞は賞状、副賞は100万円。単に映画界の功労者を表彰する賞ではなく、既存のジャンルにとらわれず、独創的で本格的な仕事を評価する点に特徴があります。
2026年の第18回受賞者は、翻訳家・エッセイストの岸本佐知子です。2026年7月に受賞が発表され、9月7日には東京・六本木の国際文化会館で贈呈式が開催されました。
伊丹十三記念館の公式発表によると、授賞理由は「現実世界をひょいと裏返してみせるような、翻訳とエッセイのオリジナルな仕事に対して」です。岸本は、ルシア・ベルリン、リディア・デイヴィス、ミランダ・ジュライなどの作品を翻訳する一方、独自の観察眼を生かしたエッセイでも知られています。
この受賞は、翻訳が単に外国語の文章を日本語に置き換える作業ではなく、作品の見え方や読者の世界認識を変える創造的な表現活動であることを示す事例です。映画監督の名前を冠した賞で翻訳家が選ばれること自体、伊丹十三賞の対象範囲の広さを物語っています。
【創設の理由と経緯】宮本信子が伊丹十三賞に託した思い
伊丹十三賞の創設を理解するには、伊丹十三がどのような仕事をしていた人物なのかを押さえる必要があります。伊丹は映画監督として『お葬式』『タンポポ』『マルサの女』などを手がけたほか、俳優、エッセイスト、グラフィックデザイナーなど、多方面で才能を発揮しました。1997年に亡くなった後も、その作品と表現方法は幅広い分野で語り継がれています。
2007年には、伊丹十三の仕事と人物像を伝える伊丹十三記念館が愛媛県松山市に開館しました。翌2008年秋には、伊丹の遺業を顕彰する事業の一つとして伊丹十三賞が創設され、2009年に第1回の贈呈が行われています。
2008年11月の創設発表に関する映画.comやチケットぴあの報道によると、伊丹十三記念館館長の宮本信子は、伊丹映画に関わった人々が、その後に活躍の場を広げていく姿を伊丹が喜んでいたことを振り返り、その思いを賞に託したいと説明しました。
ここに、伊丹十三賞の創設理由の核心があります。過去の功績を保存するだけでなく、伊丹の作品に関わった人々や、新しい表現に挑む人々が自分の力を発揮し、さらに活動を広げていくことを応援する。その考え方が、現在まで続く賞の方向性につながっています。
宮本信子は、伊丹十三の妻であり、俳優として伊丹作品を支えてきた人物でもあります。記念館の館長として伊丹の仕事を伝え続けるとともに、伊丹十三賞を通して、映画だけに限定されない文化活動の豊かさを紹介してきました。
なお、「一六本舗」と伊丹十三賞の関係にも注意が必要です。伊丹十三記念館の公式サイトによると、伊丹は一六本舗の「一六タルト」のCMに出演しており、記念館の敷地も、かつては一六本舗の社員駐車場でした。また、同社と伊丹の仕事をつないだ玉置泰は、伊丹プロダクションやITM伊丹記念財団とも関わってきた人物です。ただし、現在の伊丹十三記念館公式サイトの賞概要に記載されている主催者はITM伊丹記念財団であり、一六本舗ではありません。歴史的なつながりと、賞の公式な運営体制は区別して理解する必要があります。
【選考基準と仕組み】「びっくりした」「面白い」「誰にでもわかる」の意味
伊丹十三賞の選考を語るうえで欠かせないのが、宮本信子が創設発表時に示した3つのキーワードです。
- 「びっくりした」:これまでの常識や見方を揺さぶり、新鮮な驚きを与えること。
- 「面白い」:知的な発見や楽しさがあり、受け手の好奇心を動かすこと。
- 「誰にでもわかる」:専門性や深い内容を持ちながら、幅広い人に伝わる表現になっていること。
この3つは、作品を単純化してわかりやすくすることだけを求める基準ではありません。難しい題材や専門的な知識を扱っていても、独自の切り口や工夫によって、受け手が興味を持ち、自分なりに理解できる形へと届けられているか。その点が、賞の理念を読み解く手がかりになります。
伊丹十三記念館の公式概要によると、授賞対象は伊丹十三が才能を発揮した分野で優れた実績をあげた人です。選考は一般公募による応募作品の審査ではなく、選考委員会が対象となる活動や業績を検討して受賞者を決定する仕組みです。
2026年の公式概要に記載された選考委員は、エッセイストの酒井順子、映画監督の周防正行、イラストレーター・エッセイストの南伸坊です。異なる分野で活動する委員が関わることも、映画や文学といった単一ジャンルの評価に収まりにくい賞の特徴といえます。
選考対象期間にも規定があります。現在の公式規程では、贈賞年の前年4月1日から、贈賞年の3月31日までに発表された作品などの業績が対象です。2026年の選考であれば、原則として2025年4月1日から2026年3月31日までの活動が対象期間となります。
創設当初は、エッセイやノンフィクションなどの「言語表現を主軸としたもの」と、映画やテレビ番組、CM、イラストレーションなどの「映像・ビジュアル表現を主軸としたもの」を分け、毎年交互に選考していました。しかし、第3回からはすべての分野を統一して選考する方式へ変更されています。現在の幅広い受賞者層は、この制度変更とも関係しています。
【伊丹十三賞の歴代受賞者一覧】2009年から2026年まで
伊丹十三賞の歴代受賞者を見ると、コピーライター、タレント、思想家、ジャーナリスト、映画監督、音楽家、歴史学者、浪曲師、翻訳家など、活動分野が多岐にわたっていることがわかります。以下は、伊丹十三記念館の公式受賞者一覧をもとに整理した、第1回から第18回までの受賞者です。
| 受賞年・回 | 受賞者 | 主な活動分野 |
|---|---|---|
| 2009年・第1回 | 糸井重里 | コピーライター、エッセイスト、ウェブメディア運営 |
| 2010年・第2回 | タモリ | タレント、テレビ番組 |
| 2011年・第3回 | 内田樹 | 思想、哲学、著述 |
| 2012年・第4回 | 森本千絵 | アートディレクション、デザイン |
| 2013年・第5回 | 池上彰 | ジャーナリズム、ニュース解説 |
| 2014年・第6回 | リリー・フランキー | 作家、俳優、イラストレーション |
| 2015年・第7回 | 新井敏記 | 雑誌編集、出版 |
| 2016年・第8回 | 是枝裕和 | 映画監督、映像表現 |
| 2017年・第9回 | 星野源 | 音楽、俳優、文筆 |
| 2018年・第10回 | 磯田道史 | 歴史研究、著述、テレビ出演 |
| 2019年・第11回 | 玉川奈々福 | 浪曲、伝統芸能 |
| 2020年・第12回 | 宮藤官九郎 | 脚本、演出、俳優 |
| 2021年・第13回 | 清水ミチコ | ものまね、音楽、パフォーマンス |
| 2022年・第14回 | 小池一子 | 編集、デザイン、クリエイティブディレクション |
| 2023年・第15回 | 三谷幸喜 | 脚本、演出、映画・舞台・テレビ |
| 2024年・第16回 | のん | 俳優、音楽、映画製作、アート |
| 2025年・第17回 | 山田五郎 | 編集、評論、美術解説、インターネット番組 |
| 2026年・第18回 | 岸本佐知子 | 翻訳、エッセイ、出版 |
この一覧で注目したいのは、受賞者が特定の業界や職業に偏っていないことです。糸井重里のウェブメディア、池上彰のニュース解説、是枝裕和の映画、星野源の音楽や俳優活動、玉川奈々福の浪曲、岸本佐知子の翻訳とエッセイは、表面的には大きく異なる仕事です。
しかし、それぞれの活動には、独自の視点を持ち、受け手の理解や感覚を広げるという共通点を見いだせます。伊丹十三賞は、ジャンルの知名度や形式の違いだけでなく、仕事そのものが持つ新鮮さや表現の力を評価してきた賞なのです。
【伊丹十三賞の評判と受賞理由】なぜ異分野の表現者が選ばれるのか
伊丹十三賞の特徴は、受賞者の肩書だけでは評価の理由を理解しきれないことです。公式発表に記された授賞理由を読むと、その人が何をしたかだけでなく、どのような新しさを文化活動にもたらしたのかが重視されていることがわかります。
たとえば、2025年の第17回では編集者・評論家の山田五郎が受賞しました。伊丹十三記念館の公式発表では、美術を対話的に掘り下げるインターネット番組「山田五郎 オトナの教養講座」の斬新さと面白さが評価されています。美術という専門的なテーマを、オンライン番組を通して幅広い視聴者に届けた仕事が評価の対象となりました。
2024年の第16回受賞者は、俳優・アーティストののんです。授賞理由は、俳優、ミュージシャン、映画監督、アーティストとして、困難を乗り越えながら自由な表現に挑み続ける創作活動に対して、というものでした。活動領域を一つに限定せず、自ら表現の可能性を広げてきた姿勢が評価されています。
そして2026年の岸本佐知子は、翻訳とエッセイによって現実の見方を変える独創性が評価されました。2025年の山田五郎、2024年ののん、2026年の岸本佐知子を並べるだけでも、伊丹十三賞がインターネット番組、複合的な創作活動、翻訳・文筆という異なる領域を評価していることが見えてきます。
こうした受賞歴は、賞の評判を判断するうえで有力な材料です。ただし、受賞者の知名度だけを見て「人気ランキング」と捉えるのは適切ではありません。選考の特徴を理解するには、受賞者の名前だけでなく、公式に示された授賞理由を読み比べることが大切です。
また、伊丹十三賞は、必ずしも新人だけを対象とする賞ではありません。すでに広く知られている表現者であっても、対象期間の仕事や活動が賞の理念に合致すれば評価の対象になります。逆に、知名度が高いことだけで受賞が決まる仕組みでもありません。
【プロの結論】伊丹十三賞を理解するための3つの視点
伊丹十三賞を深く理解するには、単なる受賞者リストではなく、選考の背後にある考え方に注目する必要があります。編集・文化報道の視点から整理すると、押さえておきたいのは次の3点です。
1.「びっくりした」は、意外性だけでなく視点の新しさを示す。
珍しい題材を扱えばよいという意味ではありません。翻訳であれば、原文の魅力を日本語で新たに立ち上げること。美術解説であれば、知っている作品を別の角度から見せること。受け手が当たり前だと思っていた見方を変える仕事に、伊丹十三賞の理念が表れます。
2.「面白い」は、楽しさと知的な発見を両立させる。
伊丹十三の映画は、社会の問題や人間の行動を題材にしながら、娯楽としての魅力も追求していました。伊丹十三賞の受賞者にも、専門知識や社会的なテーマを扱いつつ、見る人や読む人の好奇心を引き出す表現が見られます。面白さは内容を薄めることではなく、内容を伝える力の一部なのです。
3.「誰にでもわかる」は、専門性を捨てることではない。
専門的な内容を広く伝えるには、情報の整理、言葉の選択、構成の工夫が必要です。山田五郎の美術解説や岸本佐知子の翻訳・エッセイは、異なる方法で受け手と作品の間に橋を架ける活動として捉えられます。わかりやすさとは、単純化ではなく、複雑なものに入っていく入口をつくることです。
この3つの視点を知っておくと、歴代受賞者の顔ぶれがなぜ多様なのかを理解しやすくなります。伊丹十三賞は映画賞という枠にとどまらず、文化活動のなかで新鮮な視点を生み、面白さを持って人に伝える仕事を見つけ出す賞として、その存在意義を保っています。
【伊丹十三賞】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2026年の伊丹十三賞は誰が受賞しましたか?
A1:第18回の受賞者は翻訳家・エッセイストの岸本佐知子です。授賞理由は、現実世界を新しい角度から見せる翻訳とエッセイの独創的な仕事に対して、というものです。2026年9月7日に贈呈式が開催されました。
Q2:伊丹十三賞の選考基準は何ですか?
A2:伊丹十三が才能を発揮した分野で優れた実績をあげた人が対象です。「びっくりした」「面白い」「誰にでもわかる」という視点が賞の理念を理解する手がかりになります。エッセイ、翻訳、映画、テレビ、デザインなど、幅広い分野の活動が評価されます。
Q3:伊丹十三賞は一六本舗が主催しているのですか?
A3:伊丹十三記念館の現在の公式概要では、主催は公益財団法人ITM伊丹記念財団、協力は株式会社伊丹プロダクションとされています。一六本舗は伊丹十三がCMに出演したことや、記念館の敷地が同社の社員駐車場だったことなどで深い歴史的なつながりがありますが、現行の公式概要に記載された主催者とは区別する必要があります。
伊丹十三賞は、映画監督・エッセイスト・俳優として活躍した伊丹十三の遺業を記念し、2008年に創設された文化賞です。宮本信子が創設時に示した「びっくりした」「面白い」「誰にでもわかる」という視点は、現在の選考を理解するうえでも重要な手がかりになっています。
2026年の第18回受賞者は岸本佐知子。翻訳とエッセイによって世界の見え方を変える独創性が評価されました。歴代受賞者には糸井重里、タモリ、池上彰、是枝裕和、星野源、宮藤官九郎、のん、山田五郎などが名を連ね、賞が幅広い文化活動を対象としてきたことがわかります。
伊丹十三賞の評判や受賞理由を知りたいときは、知名度や肩書だけで判断せず、公式発表に記された授賞理由と対象となった仕事に注目するのがおすすめです。そこから見えてくるのは、ジャンルを越えて新しい発想を生み出し、面白さを通して人に伝える表現者を応援するという、伊丹十三賞ならではの考え方です。
今後の受賞者を追う際も、「どの分野の人が選ばれたか」だけでなく、「どのような仕事が評価されたのか」を読み解くことで、この賞が日本の文化や表現活動に果たしている役割を、より具体的に理解できるはずです。