電車やバスの優先席で、高齢者や子ども連れの人が立っているのに、座ったまま動かない乗客。そんな光景を見ると、「優先席なのだから譲るべきではないか」と感じる人もいるでしょう。一方で、座っている人にも、外見からは分からない体調不良や障害、家庭の事情がある可能性があります。
この問題が改めて注目されたのが、2025年9月26日に朝日新聞の「声」欄に掲載された「優先席、勇気出して譲らなかった」という投稿です。加えて、わかもと製薬の調査では、電車内で優先席に座ることがある人が66.9%に上りました。近鉄とJR西日本も、優先席の利用について公式に案内しています。
【2025年9月】「優先席、勇気出して譲らなかった」が話題になった理由

2025年9月26日、朝日新聞の「声」欄に掲載された「優先席、勇気出して譲らなかった」という投稿が、SNS上で大きな反響を呼びました。10月3日付のウェブメディア「Merkmal」は、この投稿をめぐり、X(旧Twitter)で10万件の「いいね」が集まったと紹介しています。
同記事によると、投稿者は神奈川県の会社員で、幼児をひざに乗せ、知的障害のある小学生の娘と一緒に優先席に座っていました。その際、近くにいた高齢者から「最近の若者は席を譲らない」と大声で言われ、さらに酔客から肩をたたかれ、高齢者が目の前にいることを指摘されたといいます。
投稿者は事情を説明することなく座り続けたものの、複雑な気持ちが残ったと伝えられています。この出来事の核心は、単純に「若い人が高齢者に席を譲らなかった」という話ではありません。投稿者自身も幼い子どもを連れ、特別な配慮を必要とする家族と行動していた点にあります。
優先席をめぐる議論では、立っている人の年齢や外見が判断材料になりやすいものです。しかし、実際にどの程度の身体的負担を抱えているか、座り続ける必要があるかまでは、周囲から分からない場合があります。
この投稿に対しては、事情を知らずに席を譲るよう迫ることへの批判や、外見だけで乗客の健康状態を決めつけるべきではないという共感が広がりました。一方、優先席なのだから必要とする人に譲るべきだという考えも、議論の重要な一方を占めています。
「譲らない勇気」という言葉は、誰に対しても席を譲らなくてよいという意味で捉えるべきではありません。自分自身にも座席を必要とする事情があるなら、周囲の視線だけを理由に無理をしない。その考え方が、この問題を読み解く手がかりになります。
【66.9%の調査】優先席に座る人の心理と譲らない理由
優先席を利用する人の実態を知るうえで参考になるのが、わかもと製薬が2023年10月31日に公表したアンケート調査です。
調査は2023年9月12日から19日にかけて実施され、アンケートサイト「くらするーむ」の会員1,949人が回答しました。その結果、電車に乗った際に「優先席に座ることがある」と答えた人は66.9%でした。
ここで注意したいのは、66.9%という数字の意味です。元の質問は「優先席に座ることがありますか」というもので、「必要に応じて座る人が66.9%」と限定して尋ねた結果ではありません。優先席を利用することがある人の割合であり、座る理由や事情は別途考える必要があります。
では、なぜ優先席に座るのでしょうか。同調査で、座ることがある人に理由を尋ねたところ、最も多かったのは「その席を必要とする人がいたら譲るつもりで座るから」で、618人でした。次いで「席が空いているのに立っていると邪魔になるから」が501人となっています。
つまり、優先席に座っている人が、必ずしも席を独占するつもりとは限りません。必要な人が来たら譲るつもりで座っている人もいます。反対に、座っている理由を周囲に説明できず、誤解されている人もいるでしょう。
内閣府が2021年1月に公表した「公共交通機関利用時の配慮に関する世論調査」も、譲り合いの難しさを示しています。2020年10月から11月に実施された調査では、優先席を必要とする人が近くにいると気づいた場合、「譲ろうと思う」と「どちらかといえば譲ろうと思う」を合わせて72.0%でした。
一方、譲ろうと思わない理由として挙がったのは、「譲ることが相手に失礼になる可能性がある場合」が46.4%、「体調不良やけがで優先席を必要としている場合」が34.7%、「声をかけるのが恥ずかしい場合」が26.9%などです。これらは複数回答であり、いずれも2020年の調査結果です。
この結果から分かるのは、席を譲らない行動だけを見ても、その人の心理や事情までは特定できないということです。譲る側の遠慮、声をかける難しさ、自分自身の体調など、さまざまな要因が関係しています。
【定義とルール】近鉄・JR西日本は優先席をどう案内している?
優先席は、主として高齢者や障害のある人などが優先的に利用するために設けられた座席です。国のバリアフリー関連基準にも定義があり、公共交通機関では対象となる座席の表示などが整備されています。
ただし、優先席は、見た目で高齢者と分かる人だけのための座席ではありません。体の状態や障害の有無など、周囲からは把握しにくい事情を抱える人も利用の対象となります。
近畿日本鉄道とJR西日本の公式案内を確認すると、両社とも、優先席を必要とする人がいる場合には席を譲るよう呼びかけています。
近鉄は公式サイトの「快適に電車・駅をご利用いただくために」で、特急列車を除く各車両に優先座席を設置していると案内しています。また、高齢者や体の不自由な人に加え、ヘルプマークやマタニティマークを持つ人など、座席を必要とする人への譲り合いを求めています。
JR西日本も公式サイトで、特急列車を除くすべての在来線列車に優先座席を設け、必要とする乗客がいれば席を譲るよう協力を呼びかけています。一般的な車内マナーとしても、座席を必要とする人に席を譲ることを挙げています。
両社の案内に共通しているのは、年齢や見た目だけで対象者を限定していないことです。優先席を必要とする人がいるかどうかに目を向け、互いに配慮することが基本になっています。
| 時期・出典 | 確認できる事実 | 読み解くポイント |
|---|---|---|
| 2025年9月26日・朝日新聞「声」欄 | 「優先席、勇気出して譲らなかった」という投稿が掲載された。 | 子ども連れなど、外見だけでは事情を判断できないケースがある。 |
| 2023年10月31日・わかもと製薬 | 1,949人の調査で、優先席に座ることがある人は66.9%。 | 座る人の割合と、座る理由は分けて考える必要がある。 |
| 2021年1月・内閣府 | 必要な人が近くにいれば譲ろうと思う人は72.0%。 | 譲る意思があっても、声かけへのためらいなどが生じる。 |
| 近鉄・JR西日本の公式案内 | 優先席を必要とする人がいれば席を譲るよう呼びかけている。 | 高齢者だけでなく、障害や妊娠など外見では分かりにくい事情にも配慮する。 |
このように、鉄道会社の案内は、優先席を必要とする人への配慮を求めるものです。席に座ること自体を一律に否定する内容ではなく、誰がどの程度座席を必要としているかを考えながら利用することが求められています。
【見た目では分からない事情】優先席を譲らない人に考えられる5つの理由
優先席を譲らない人の心理を考えるとき、最初から「思いやりがない」「マナーが悪い」と決めつけるのは適切ではありません。実際には、次のような理由が考えられます。
1.本人も体調不良やけがを抱えている
慢性的な痛み、めまい、強い疲労、けがなどがあると、立っていること自体が大きな負担になる場合があります。外見上は健康そうに見えても、長時間立つことが難しい人もいます。本人が優先席を必要としているなら、周囲からの視線だけを理由に無理をする必要はありません。
2.外見から分かりにくい障害や病気がある
内部障害、義足や人工関節の使用、難病など、見ただけでは状態を把握できない事情は少なくありません。近鉄が案内するヘルプマークは、外見からは分かりにくくても、周囲の援助や配慮を必要とする人がいることを知らせるためのものです。ただし、マークがないからといって、配慮を必要としていないとは限りません。
3.妊娠中や子ども連れで、座る必要がある
妊娠中の人は、外見から妊娠が分かりにくい時期でも、体調によって立っていることがつらくなる場合があります。また、幼い子どもを連れている人や、障害のある子どもの介助をしている人も、移動中に座席を必要とすることがあります。
2025年9月の投稿が示したのも、単純な「高齢者対若者」という構図では説明できない状況でした。優先席を必要とする人は一つの属性に限られず、複数の事情が同時に存在する場合もあります。
4.席を譲ることで、かえって相手に失礼になると考えている
高齢に見える人に席を譲ろうとした結果、「自分はまだ座るほどではない」と受け取られるのではないか。そんなためらいから声をかけられない人もいます。内閣府の調査で「譲ることが相手に失礼になる可能性がある場合」が、譲ろうと思わない理由の最多だったことも、この心理を裏付けています。
5.周囲の反応を気にして、行動できなくなっている
席を譲るべきか、譲らなくてもよいのか。こうした判断に自信が持てず、声をかけること自体を避けてしまう人もいます。優先席をめぐって批判や非難が起こるほど、乗客は周囲の視線を気にしやすくなります。
もちろん、必要としている人が目の前にいても、意図的に無視するケースがないとはいえません。しかし、座ったままという行動だけで、上記のような事情と、配慮する気がない場合とを区別することはできません。
大切なのは、目に見える行動から相手の人格まで決めつけないことです。譲り合いを促すことと、他人の事情を勝手に断定することは、分けて考える必要があります。
【電車・バスの優先席マナー】譲るべきか迷ったときの判断基準
優先席を譲るべきかどうか迷ったときは、年齢だけで判断するのではなく、自分自身の状態と、目の前の人が必要としている可能性の両方を考えることが大切です。
自分が座席を必要としている場合は、無理に立たない。体調不良やけが、障害などの事情があるなら、周囲からどう見られるかだけを理由に立つ必要はありません。「譲らない勇気」とは、こうした場面で自分の体を守るための考え方として捉えることができます。
自分が立っても問題なく、相手が座席を必要としているようなら、譲ることを考える。高齢者、妊娠中の人、障害のある人、けがをしている人、幼い子どもを連れている人など、配慮を必要とする人はさまざまです。見た目だけで判断できない場合もあるため、状況に応じて声をかけるとよいでしょう。
声をかけるなら、「よろしければ、お座りになりますか」といった、相手が断ることもできる聞き方が適しています。譲る意思を伝えつつ、座るかどうかは相手に委ねる方法です。相手が断った場合は、無理に勧める必要はありません。
反対に、自分も体調が悪くて立てない場合は、詳しい病状を説明する義務があるかのように感じる必要はありません。「すみません、私も体調が悪くて立つのが難しいんです」と伝えるだけでも十分です。説明したくない事情があるなら、無理に話す必要もありません。
高齢者と子ども連れの人が同時に座席を必要としている場合も、単純に年齢だけで優先順位を決めることはできません。子どもの安全や介助の必要性、本人の体調など、具体的な状況はそれぞれ異なるためです。可能であれば周囲の空席を確認したり、近くの乗客に協力を求めたりする方法もあります。
また、席を譲るよう強い口調で迫ったり、座っている人の事情を確認せずに非難したりすることは、問題の解決につながりません。困っている人を助けるという目的であっても、別の乗客を追い詰めてしまえば、譲り合いの趣旨から離れてしまいます。
車内でトラブルになりそうな場合は、無理に言い争わず、必要に応じて乗務員や駅係員に相談することも選択肢です。優先席の問題を個人同士の対立だけで解決しようとせず、安全を確保することも忘れてはいけません。
【優先席譲らない】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:優先席は、空いていても座ってはいけないのでしょうか?
A1:近鉄やJR西日本の公開案内は、優先席を必要とする人がいれば席を譲るよう求めています。座ること自体を一律に禁止する案内ではありません。ただし、必要とする人が利用しやすいように配慮することが基本です。
Q2:優先席を譲らない人は、マナー違反なのでしょうか?
A2:座っているという事実だけでは判断できません。本人も体調不良や障害などで座席を必要としている可能性があります。一方、必要としている人がいると分かっていても配慮しない場合は、譲り合いを求める優先席の趣旨に反する行動と考えられます。
Q3:「必要に応じて座る人が66.9%」という調査は、いつ実施されたものですか?
A3:わかもと製薬が2023年9月に実施し、同年10月31日に公表した調査です。1,949人が回答し、66.9%が「優先席に座ることがある」と答えました。これは必要なときに限って座る人の割合ではなく、優先席を利用することがある人の割合です。
Q4:近鉄とJR西日本の優先席のルールに違いはありますか?
A4:両社とも、特急列車を除く対象列車に優先席を設け、必要とする人がいれば席を譲るよう呼びかけています。近鉄はヘルプマークやマタニティマークについても案内しています。具体的な設備や案内表示は各社の公式情報で確認できます。
Q5:自分も体調が悪いのに、席を譲るよう求められたらどうすればよいですか?
A5:無理に立つ必要はありません。「申し訳ありませんが、私も体調が悪くて立てないんです」と簡潔に伝える方法があります。説明を強要されたり、相手とのやり取りが危険になりそうだったりする場合は、駅係員や乗務員への相談も検討してください。
優先席を譲らない人がいると、マナーや思いやりの問題として受け止められがちです。しかし、2025年9月の「優先席、勇気出して譲らなかった」という投稿や、優先席の利用に関する調査を踏まえると、問題はそれほど単純ではありません。
わかもと製薬の調査では、優先席に座ることがある人が66.9%に上りました。また、内閣府の調査では、必要とする人が近くにいたら譲ろうと思う人が72.0%でした。いずれの数字も、座席の利用や譲り合いに対する人々の意識を示していますが、個々の乗客の事情まで明らかにするものではありません。
近鉄とJR西日本の公式案内に共通するのは、優先席を必要とする人がいれば席を譲るという考え方です。その一方で、座っている人自身が配慮を必要としている可能性も忘れてはいけません。
【プロの結論】優先席をめぐる問題を改善するには、「高齢者には必ず譲る」「若い人が座るのはおかしい」といった年齢や外見だけの判断から離れることが大切です。自分が座席を必要としているなら、周囲の目を気にして無理をしない。自分に余裕があり、座席を必要としている人がいれば、自然に譲る。そして、他人の事情を知らないまま非難しない。この3つの姿勢が、優先席をめぐる不要な対立を減らすことにつながります。
「譲らない勇気」は、思いやりを捨てることではありません。自分の事情を守りながら、他人の事情にも想像力を向けること。電車やバスの優先席が、誰かを責める場所ではなく、必要な人が安心して利用できる場所になるために、まずは目の前の人を決めつけないことから始めたいものです。