ブルーバードU11型を理解するうえで、まず押さえたいのが、先代910型の成功と、1980年代の日産自動車が進めていたFF化の流れだ。
1979年11月に登場した6代目910型は、直線的でクリーンなスタイリングとスポーティーな走りで人気を集めた。日産ヘリテージコレクションによれば、小型車クラスで27か月連続の販売首位を記録したベストセラーカーである。後輪駆動のFRを採用した910型は、ブルーバード最後のFR世代としても知られる。
しかし、U11型へのフルモデルチェンジでは、従来の駆動方式を継承するのではなく、エンジンと駆動輪を車体前方にまとめるFF方式へ転換した。
FF化には、設計上の明確な利点がある。FR車では必要となるプロペラシャフトなどの駆動系部品を省きやすく、床下のレイアウトを効率化できる。その結果、車体サイズを大きく変えなくても、室内空間や乗員の足元を確保しやすくなる。部品構成の合理化も、量産車としての設計に有利に働く。
もちろん、FFには前輪が駆動と操舵を兼ねるため、加速時にハンドルが左右へ取られるトルクステアなどの課題もある。日産ヘリテージコレクションの解説では、U11型は910型に比べてトレッドを80〜100mm拡大し、FF化に伴う操縦安定性の課題に対応したとされている。
つまり、U11型は単に駆動方式を変更しただけの車ではない。910型の人気を引き継ぎながら、室内空間とメカニズムの合理性を両立させようとした世代だった。
【徹底比較】ブルーバードU11型と910型は何が違う?

両車の違いは、外観以上に車体の基本設計に表れている。
6代目・910型
1979年登場/FR方式
直線基調のスタイルと後輪駆動ならではの走りが魅力。27か月連続販売首位を記録した人気モデル。
7代目・U11型
1983年10月登場/FF方式
先代の印象的なスタイリングを引き継ぎながら、駆動方式と前後サスペンションを刷新。室内空間の確保にも重点を置いた。
具体的な数値を、日産ヘリテージコレクションに掲載されている代表的な保存車両の仕様で比較する。グレードやボディ形式によって数値は異なるため、以下は世代の違いを把握するための一例だ。
※910型は1982年式の4ドアハードトップ、U11型は1983年式の4ドアハードトップ・ターボSSS-X 50周年特別記念車の掲載データを参考にしている。ターボエンジンの出力や装備は年式・仕様によって異なる。
数字から分かるのは、U11型が全長をほぼ維持しつつ、全幅を35mm、ホイールベースを25mm拡大していることだ。車体をむやみに大型化するのではなく、パッケージングを見直して居住性を高めようとした方向性が読み取れる。
また、U11型から正式名称が「日産・ブルーバード」に改められた点も見逃せない。910型までの「ダットサン・ブルーバード」からブランド表記が変わり、駆動方式とともに世代交代を印象づけた。
【走りと室内空間】U11型のサスペンションと居住性を解説
U11型の変化は、FF化という言葉だけでは説明しきれない。前後サスペンションの構成も見直されている。
先代910型は、前輪にストラット、後輪にセミトレーリングアーム式の独立懸架を採用していた。一方、U11型の代表的な仕様では、前後ともストラット式となっている。駆動方式の変更に合わせて、車両全体の設計を組み直した結果だ。
FF化で居住性はどう変わったのかFR車は、エンジンの動力を後輪に伝えるため、車体中央の床下にプロペラシャフトを通す必要がある。これに対してFF車は、エンジンと変速機、駆動輪を前方にまとめられるため、床下の空間を有効活用しやすい。
U11型ではホイールベースの延長も相まって、同程度の車体寸法のなかで室内空間を確保しやすくなった。後席の足元や床面の構成など、日常的な使いやすさに関わる部分でFF化の利点が生きている。
ただし、FFなら必ず後席が広い、FRなら必ず狭いという単純な話ではない。実際の居住性は、シート形状、ルーフの高さ、前後席の配置、床面の設計などによって変わる。U11型の場合は、駆動方式の変更に加え、ホイールベースと車体幅の拡大を組み合わせた点が重要だ。
サスペンション変更は走りにどう影響したのかストラット式は、比較的コンパクトに構成しやすいサスペンション形式だ。前後ともストラットを採用するU11型は、FFのパッケージングに合わせて足回りを合理化した世代と捉えられる。
一方で、910型が評価された理由の一つは、FR車としての走行安定性とハンドリングだった。日産ヘリテージコレクションは、910型のゼロスクラブ・フロントサスペンションにも言及している。
そのため、910型からU11型への移行は、単純な性能向上というよりも、走りの味付けを含めた車づくりの方向転換だったと見るのが適切だ。後輪駆動の操縦感覚を重視する人と、室内空間やパッケージ効率を重視する人とでは、両車への評価が分かれる余地がある。
【エンジンとマキシマ】U11型の主要仕様と前期・後期の違い
U11型は、FF化だけでなくエンジンラインアップの刷新でも特徴づけられる。日産ヘリテージコレクションの資料では、発売当初の主なエンジンとして、1.6LのCA16型、1.8LのCA18型、2.0LのCA20型、1.8LターボのCA18ET型、2.0LディーゼルのLD20型が紹介されている。
スポーティーなSSS系には、1.8L直列4気筒SOHCターボのCA18ET型を搭載するモデルが用意された。日産の保存車両データに掲載されたターボSSS-X 50周年特別記念車では、最高出力135PS、最大トルク20.0kgmを発揮する。
U11前期型と後期型の違い1983年10月に登場した前期型は、910型のイメージを色濃く残しながら、基本メカニズムを刷新したモデルだ。
1985年8月のマイナーチェンジでは内外装が変更され、SSS系にはDOHCターボのCA18DET型を搭載するモデルが加わった。エンジンや装備の構成が変わったことで、U11型はモデルライフの途中でも商品性を高めている。
その後、1987年9月にはセダンとハードトップが8代目U12型へフルモデルチェンジした。一方、ワゴンやバンはその後もU11型を継続し、1990年まで販売された。このため、U11型の生産・販売期間を一律に1983〜1987年とするのは正確ではない。ボディ形式によって切り替え時期が異なるためだ。
ブルーバード・マキシマは何が違う?
ブルーバード・マキシマ
1984年10月登場
U11型をベースにした上級シリーズ。V型6気筒エンジンと、より長いノーズを備えた上級FF車として展開された。
ブルーバード・マキシマは、1984年10月に追加された上級シリーズだ。日産ヘリテージコレクションによれば、日本のFF車として初めてV型6気筒エンジンを搭載したモデルで、2.0LのVG20ET型ターボ仕様では最高出力170PSを発揮した。
通常のU11型より90mm長いノーズが特徴で、最上位グレードのルグランには高級オーディオや超音波式電子制御サスペンションなどが採用された。
その後、1987年5月にはマキシマが独立した車名となる。したがって、ブルーバード・マキシマU11型は、単なる上級グレードではなく、ブルーバードのFFプラットフォームを高級車方向へ発展させた派生モデルとして理解すると分かりやすい。
【CMと歴代モデルの系譜】沢田研二がつないだ910型からU11型へ
ブルーバードU11型の歴史を振り返る際、技術と同じくらい興味深いのが広告戦略だ。
910型のイメージキャラクターを務めたのは歌手の沢田研二だった。日産ヘリテージコレクションの解説では、910型の広告コピー「ザ・スーパースター」「ブルーバード、お前の時代だ。」も紹介されている。
U11前期型でも沢田研二がイメージキャラクターを引き継いだ。駆動方式をFRからFFへ変える大きな技術革新を実施しながら、デザインや広告表現では人気を獲得した910型との連続性を保とうとしたのである。
一方、日産のCM情報では、U11型の1985年8月22日からのCM曲として、ガーシュウィン作曲の「ラプソディ・イン・ブルー」が記録されている。前期型から後期型への移行期には、CMの音楽や演出にも変化があった。沢田研二の起用とU11型のCMを語る際には、前期・後期を区別する必要がある。
ブルーバード歴代モデルの系譜ブルーバードの歴史は、1959年に登場した初代から続いている。U11型の位置づけを把握するには、前後の世代を並べると分かりやすい。
- 310系(初代): 1959年登場。ブルーバードの出発点。
- 510型(3代目): 1967年登場。スポーティーな走りで名声を高めた。
- 910型(6代目): 1979年登場。FRを採用し、27か月連続販売首位を記録。
- U11型(7代目): 1983年登場。歴代初のFF化を実施。
- U12型(8代目): 1987年登場。ブルーバード初の4WDを設定するなど、走行性能の新たな可能性を広げた。
U11型は、510型や910型のような象徴的なヒット世代の間に埋もれがちだ。しかし、ブルーバードが長年のFR路線からFFへ切り替えたのは、この世代だった。歴代モデルの系譜において、U11型は駆動方式とパッケージングの転換点に位置する。
【プロの結論】2026年にU11型を評価するなら、何を見るべきか
U11型を評価する際は、910型の後継としての人気や知名度だけでなく、何を変え、何を引き継いだのかという視点が欠かせない。
最初に、室内空間やFFの合理的な設計を重視するなら、U11型はブルーバードの進化を具体的に示す一台だ。前後ストラット式サスペンションやCA系エンジン、先進装備など、1980年代の日産が量産乗用車に盛り込んだ技術を知る手がかりになる。
一方、FRならではの操縦感覚や910型のスポーティーなイメージに魅力を感じるなら、U11型の評価は変わるかもしれない。両車は外観に共通点があるものの、駆動方式と足回りの設計思想は異なる。見た目だけで同じ性格の車と判断するのは早計だ。
また、2026年に実車を探す場合は、年式とグレード、ボディ形式を区別して確認したい。特に前期型と後期型では外装やエンジン構成に違いがあり、マキシマは別の上級シリーズとして扱われる。現存車のコンディションや部品の入手性も、購入を検討する際には重要な判断材料となる。
【ブルーバードU11】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ブルーバードU11型は何年に登場しましたか?
A1:1983年10月です。7代目ブルーバードとして登場し、歴代初のFF方式を採用しました。セダンとハードトップは1987年9月にU12型へ切り替わりましたが、ワゴンやバンはその後も販売が続きました。
Q2:ブルーバードU11型と910型の最大の違いは何ですか?
A2:最大の違いは駆動方式です。910型はFR、U11型はFFを採用しています。U11型ではホイールベースやトレッドが拡大され、サスペンション構成も見直されました。FF化によるパッケージングの改善が、室内空間の確保にもつながっています。
Q3:ブルーバード・マキシマU11型は普通のU11型と同じ車ですか?
A3:同じU11系を基盤とした上級シリーズですが、仕様は異なります。1984年10月に登場したマキシマはV型6気筒エンジンを採用し、長いノーズや上級装備が特徴でした。1987年5月には独立した車名となっています。
日産ブルーバードU11型は、1983年10月に登場した7代目であり、ブルーバード史上初のFFモデルだ。先代910型の人気を受け継ぎながら、駆動方式、サスペンション、エンジン、室内空間の設計を大きく見直した。
FF化の理由を理解するには、単に前輪駆動が新しかったというだけでなく、限られた車体寸法のなかで居住性や設計効率を高める狙いに注目する必要がある。加えて、ブルーバード・マキシマの登場や前期・後期の改良を追えば、U11型が幅広いユーザー層に対応しようとしたことも見えてくる。
910型がFRブルーバードの完成度を象徴するなら、U11型はFFブルーバードへの移行を象徴する一台だ。両世代を比較することは、1980年代の日産がスポーティーさと実用性をどう両立させようとしたのか、その設計思想を読み解くことにつながる。