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警察官の肖像権はどこまで認められる?職務質問の撮影とSNS投稿の違法性を2026年最新解説

鷺沼 千尋 鷺沼 千尋 • 更新: • 公開: • 読了約 18 分
目次

警察官に職務質問されたとき、対応を記録するためにスマートフォンで動画を撮影してもよいのか。「公務員には肖像権がない」「撮影すると公務執行妨害罪で逮捕される」といった情報を目にして、何が正しいのか迷う人もいるでしょう。

2026年10月現在、警察官にも肖像やプライバシーに関する人格的利益は認められますが、公務中の撮影が一律に禁止されているわけではありません。撮影する場所や目的、方法、必要性に加え、撮影した映像をSNSに公開する際の内容や表現によっても、法的な評価は変わります。最高裁判所の京都府学連事件判決や、動画投稿をめぐる民事裁判を踏まえ、撮影と公開の境界線を整理します。

【まず結論】警察官にも肖像権はある?公務中なら撮影は自由なのか

警察肖像権

警察官の肖像権を考えるうえで、最初に押さえたいのは「公務員だから肖像権がない」という理解は正確ではない、という点です。

日本では、肖像権について一般的な定義を定めた独立の法律があるわけではありません。一方、裁判例では、本人の容ぼうや姿態をみだりに撮影されたり、その映像を無断で公表されたりしない人格的利益が認められています。

警察官も一人の個人であり、勤務中であることだけを理由に、顔や姿を無制限に撮影・公開されてもよいことにはなりません。ただし、警察官が公道などで職務を遂行している場面では、私生活上の活動を撮影する場合とは事情が異なります。

公務の適正さを記録する必要性や、社会的な関心、報道・表現の自由などが考慮されるためです。職務質問への対応を記録する撮影には、後日の苦情申立てや事実関係の確認に役立つ側面もあります。

したがって、判断の出発点は「警察官を撮影したかどうか」だけではありません。どのような状況で、何のために、どのような方法で撮影し、その映像をどう扱ったのかが重要です。

また、撮影行為そのものの適法性と、撮影した映像の公開による肖像権・名誉権などの侵害は、分けて考える必要があります。撮影時点では大きな問題がなくても、投稿時の編集や説明文によって法的リスクが高まる場合があります。

【最高裁判例を検証】京都府学連事件と憲法13条が示した肖像権の考え方

警察官の撮影と肖像権を理解するうえで、重要な判例が最高裁判所大法廷の昭和44年(1969年)12月24日判決、いわゆる京都府学連事件です。

この事件では、1962年に京都府学生自治会連合が主催した集団行進において、警察官が行進の状況や違反者を確認するために写真撮影を行いました。被告人は撮影に関連して警察官に暴行を加え、傷害などの罪に問われた事件です。

最高裁は、憲法13条が保障する個人の私生活上の自由には、本人の承諾なく容ぼうや姿態をみだりに撮影されない自由が含まれると判断しました。警察官による撮影であっても、正当な理由がなければ憲法13条の趣旨に反するとしたのです。

一方で、同判決は、犯罪が現に行われている、または犯罪が行われた直後と認められる状況において、証拠保全の必要性と緊急性があり、撮影方法も一般的に許容される限度を超えない場合には、本人の同意や裁判官の令状がなくても撮影が許されることがあると示しました。

ここで重要なのは、この判決が警察官による市民の撮影を扱ったものであり、市民による警察官の撮影を直接判断した判例ではないという点です。警察官の肖像権や市民の撮影の自由について考える際の基本的な考え方は示していますが、「この判例があるから警察官を自由に撮影できる」と結論づけることはできません。

また、憲法13条だけでなく、憲法21条が保障する表現の自由や、公共の利益との調整も関係します。警察活動を記録し、その適正さを検証することには社会的な意義がある一方、個人の人格的利益も尊重されなければなりません。

京都府学連事件の射程を正しく理解するには、「警察官が市民を撮影する場合」と「市民が警察官を撮影する場合」を混同しないことが大切です。

【職務質問中の動画撮影】適法性と違法性を分ける判断基準

職務質問中にスマートフォンで警察官を撮影することについて、全国一律に「撮影は禁止」「必ず撮影できる」と定めた一般ルールがあるわけではありません。公道で警察官の対応を記録する行為は、それだけで直ちに違法になるものではありませんが、状況によって評価が変わります。

実際の判断では、撮影目的の正当性、撮影方法の相当性、撮影の必要性、周囲への影響、警察活動への支障などを確認する必要があります。

例えば、職務質問の開始から終了までを一定の距離を保って撮影し、警察官の言動や対応を記録する場合と、カメラを顔に極端に近づけて執拗に撮影し、進路を塞いだり身体に接触したりする場合とでは、事情が異なります。

また、警察官が撮影をやめるよう求めたという事実だけで、撮影者の行為が直ちに違法になるわけではありません。しかし、撮影を続けることが具体的な安全上の問題や職務上の支障につながっている場合には、その状況を踏まえた判断が必要です。

警察官が撮影を制止する理由としては、現場の安全確保、捜査情報や被害者の情報の保護、周囲の人物のプライバシー、施設管理上のルールなどが考えられます。肖像権だけを理由に、あらゆる撮影を当然に禁止できると考えるのも適切ではありません。

適法性を判断する際の代表的な場面を整理すると、次のようになります。

撮影・公開の状況 法的な評価の目安 注意すべき点
公道で職務質問の様子を、距離を保って記録する 撮影だけで直ちに違法とはならない 警察官の職務や周囲の安全を妨げないこと
カメラを顔に近づけ、執拗に撮影する 方法や状況によっては問題になり得る 接触、進路妨害、威圧的な行為などを避ける
警察署内や規制された事件現場で撮影する 場所の管理規則や具体的な制限の根拠によって異なる 施設管理、安全確保、捜査上の秘密などを確認する
警察官の顔や氏名を含む映像をSNSで公開する 撮影とは別に、肖像権や名誉権などの問題が生じ得る 公開の必要性、編集、説明文、第三者の映り込みを検討する

実務上、特に意識したいのは、撮影する必要性と撮影方法の相当性です。警察官の発言や行動を記録することが目的なら、必要な範囲を撮影し、物理的な距離を確保し、警察官や周囲の人の動きを妨げない方法を選ぶのが望ましい対応です。

なお、警察官から撮影をやめるよう求められた場合は、まず理由を落ち着いて確認しましょう。制止の法的根拠や具体的な状況に疑問があっても、その場で身体的に抵抗するのではなく、撮影済みの記録を保全し、後から弁護士への相談や苦情申立てを検討する方法があります。

【SNS投稿のリスク】撮影できても公開すると肖像権侵害になるのか

警察官の肖像権をめぐる問題で、見落とされやすいのが撮影と公開の違いです。職務質問の記録を自分の手元に保存する行為と、顔や氏名が分かる動画を不特定多数に公開する行為では、影響の範囲が大きく異なります。

撮影した映像をSNSや動画投稿サイトに公開するときは、警察官の肖像権だけでなく、名誉権、プライバシー、第三者の権利、投稿内容の正確性なども問題になり得ます。特に、短い場面だけを切り出して警察官の対応を断定的に批判する投稿では、前後の経緯が伝わらず、誤解を招く可能性があります。

公開の適法性について参考になる裁判例が、東京地方裁判所の令和4年(2022年)10月28日判決です。この事件では、路上で逮捕された一般人の様子を撮影した動画が、本人の承諾なく動画投稿サイトに公開されました。

裁判所は、動画が公道で撮影されたものであることだけでは公開が正当化されないとし、逮捕され、手錠をかけられるなどした本人の姿を公表する行為について、社会通念上受忍すべき限度を超えて侮辱するものと判断しました。判決では、肖像権や名誉権の侵害に対する慰謝料として30万円が認められています。

この事件の被撮影者は警察官ではなく、逮捕された一般人です。そのため、警察官を撮影・公開した場合の結論を直接示すものではありません。しかし、公共の場所で撮影された映像であっても、公開の仕方によっては肖像権侵害などが成立し得ることを理解するうえで重要な事例です。

投稿の目的が警察活動の検証や公益的な問題提起であることは、判断において考慮され得ます。ただし、公益目的を掲げれば、どのような映像でも無条件に公開できるわけではありません。公開の必要性や内容、編集方法、被写体に生じる不利益などを総合的に検討する必要があります。

例えば、警察官の対応を検証するために映像を公開する場合でも、関係のない通行人、被害者、未成年者、職務質問を受けている本人などの顔や個人情報まで公開する必要があるとは限りません。目的に照らして不要な情報をぼかす、音声を加工する、位置情報や氏名を削除するといった対策が有効です。

もっとも、モザイクをかければ必ず適法になるわけではありません。声、制服の特徴、名札、周囲の建物、投稿文などから個人が特定されることもあります。編集後の映像全体から、どのような情報が読み取れるかを確認することが大切です。

実際に警察官の不適切な対応を公表したい場合は、まず元の動画を編集せずに保全し、撮影日時や場所、撮影に至った経緯を記録しておく方法が考えられます。公開する必要がある場合には、公開する範囲と目的を明確にし、名誉毀損やプライバシー侵害などの問題がないかも検討しましょう。

【刑事訴訟法218条と公務執行妨害罪】撮影しただけで逮捕されるのか

警察官の撮影に関しては、刑事訴訟法218条や刑法95条の公務執行妨害罪が話題になることがあります。ただし、それぞれの法律が対象とする行為を区別する必要があります。

刑事訴訟法218条は、捜査機関による捜索、差押え、検証などの手続を定める条文です。同条2項は、身体拘束を受けている被疑者の写真撮影について、被疑者を裸にする場合を除き、同条1項の令状による必要がない旨を定めています。

京都府学連事件の最高裁判決も、犯罪が行われている場合などにおいて、証拠保全の必要性と緊急性があり、相当な方法で行われる撮影は、一定の条件の下で令状なしでも許容され得るとしました。

もっとも、刑事訴訟法218条は、主として捜査機関による捜査活動に関する規定です。市民が警察官を撮影する行為について、同条をそのまま撮影許可の根拠として使うことはできません。市民による撮影は、具体的な状況や関係する法令、権利の調整に基づいて判断されます。

続いて、公務執行妨害罪は、刑法95条1項に定められた犯罪で、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行または脅迫を加えた場合に成立し得ます。

警察官を撮影したという事実だけで、直ちに公務執行妨害罪が成立するわけではありません。一方、撮影中に警察官を押す、身体をつかむ、暴力を振るう、脅迫するなどの行為に及べば、撮影とは別の問題が生じます。具体的な行為や状況によっては、他の犯罪が問題になることもあります。

また、職務質問は警察官職務執行法2条に基づいて行われますが、同法1条2項は、警察官の権限行使を必要最小限度にとどめ、濫用してはならない旨を定めています。職務質問が任意の手続であることや、警察官の行為が適法だったかどうかも、個別の事案では重要な論点です。

撮影を理由に警察官と対立した場合でも、撮影の適法性と、その場での身体的な抵抗や妨害の有無は別に評価されます。警察官の対応に疑問があるなら、無理に争うよりも、記録を保全し、後から法律の専門家に相談する方が、事実関係を整理しやすくなります。

【2026年最新情報】警察官の肖像権と撮影ルールは現在どう扱われているか

2026年10月時点でも、警察官の肖像権について「公務中なら権利がなくなる」「市民による撮影はすべて禁止される」といった一律のルールを前提にすることはできません。基本となるのは、憲法13条の考え方、肖像権や名誉権に関する裁判例、撮影場所に関係する規則、具体的な職務上の必要性などです。

2026年には、肖像や声の無断利用をめぐる民事責任についても、法務省が検討会を開催し、8月7日に取りまとめ報告書を公表しました。同報告書は、生成AIによるパブリシティ権侵害などを含む、肖像・声の無断利用に関する法的論点を整理したものです。10月22日には補訂版も公表されています。

ただし、この報告書は警察官の撮影を一律に認めたり禁止したりするための新しい撮影規則ではありません。警察官を撮影する場面では、引き続き、既存の法令や判例に照らして具体的な事情を検討する必要があります。

実際の場面では、撮影を始める前に、次の点を確認すると判断しやすくなります。

1.撮影目的を明確にする。 職務質問の経緯や警察官の言動を記録することが目的なのか、単に相手を挑発するためなのかによって、撮影の必要性や方法の評価は異なり得ます。

2.撮影方法を必要な範囲にとどめる。 公道で距離を保って記録することと、相手の顔にカメラを押しつけるような撮影とでは、周囲への影響やトラブルの可能性が違います。職務や安全を妨げないようにすることが大切です。

3.撮影と公開を別々に判断する。 記録を保存する必要性があっても、その映像を一般公開する必要性まで当然に認められるわけではありません。公開するなら、映像の内容、編集、説明文、第三者の個人情報を確認しましょう。

4.公開前に個人が特定される情報を見直す。 顔、名札、氏名、声、車両番号、背景などから人物や場所が特定されることがあります。公開の目的に必要のない情報は、可能な範囲で加工・削除することを検討しましょう。

5.撮影を制止されたときは理由と根拠を確認する。 施設管理や現場の安全など、具体的な事情によって撮影が制限されることがあります。制止の適法性に疑問がある場合も、その場で身体的に抵抗するのではなく、後から相談や申立てができるよう記録を残す方法を考えましょう。

警察官の肖像権をめぐる問題では、撮影者の権利と被撮影者の権利のどちらか一方だけを絶対視するのではなく、撮影の目的・方法・必要性と、公開によって生じる影響を切り分けて考えることが重要です。

【警察肖像権】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:警察官は公務中なら肖像権がないのですか?
A1:いいえ。警察官にも肖像やプライバシーに関する人格的利益は認められます。ただし、公務中の活動を記録する必要性や公共性などが考慮されるため、私生活上の撮影とは評価が異なる場合があります。

Q2:職務質問中の警察官をスマートフォンで撮影すると違法ですか?
A2:撮影しただけで直ちに違法になるわけではありません。撮影の目的や方法、警察活動への支障、場所の管理規則など、具体的な状況によって判断されます。身体的な妨害や脅迫などに及ばないよう注意してください。

Q3:撮影した警察官の動画をYouTubeやSNSに投稿してもよいですか?
A3:撮影と公開は別の問題です。公務の検証など公益的な目的があっても、公開の方法によっては肖像権や名誉権などの侵害が問題になることがあります。無関係な第三者の顔や個人情報を加工し、内容を誤解させる編集や断定的な説明を避けることが大切です。

警察官の肖像権は、公務中だからといって消滅するものではありません。一方で、警察官の職務を記録する撮影がすべて禁止されているわけでもありません。憲法13条や京都府学連事件の判例が示す考え方を踏まえ、撮影の目的、方法、必要性、現場の状況を総合的に考える必要があります。

とりわけ大切なのは、「撮影すること」と「SNSで公開すること」を分けて考えることです。職務質問の記録を保全することと、警察官やその場に居合わせた人の顔・氏名を不特定多数に公開することでは、権利侵害のリスクが異なります。

警察官の対応に疑問があるときは、撮影を必要な範囲にとどめ、周囲の安全とプライバシーに配慮しながら記録を保全しましょう。公開の必要性や適法性に迷う場合は、映像をそのまま拡散する前に弁護士へ相談することも有効です。

2026年現在も、警察官の肖像権と撮影の自由は、単純な「撮影できる・できない」の二択では整理できません。個人の権利と公務の検証という二つの観点を踏まえ、撮影から公開まで、それぞれの段階で適切に判断することが大切です。

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トレンドリサーチャー 鷺沼 千尋
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映画ライター歴10年。公開日と配信開始日は公式サイトで確認し、あらすじはネタバレ範囲を分けて書いています。

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