「雀右衛門(じゃくえもん)」は、歌舞伎の女方を代表する名跡の一つです。2026年現在、この名を継いで舞台に立つのは五代目中村雀右衛門。1955年生まれで、七代目中村芝雀として長年活躍した後、2016年3月に父の名跡を襲名しました。華やかな姫君から世話物の女房まで、幅広い女性像を演じ分ける歌舞伎俳優です。
一方、父の四代目中村雀右衛門は、2012年に亡くなった名女方で、1991年に人間国宝に認定されています。親子で同じ名跡を継いでいるため、プロフィールや受賞歴、公演情報を調べる際には混同に注意が必要です。五代目の経歴、襲名の背景、歴代の名跡、2026年11月・12月の出演予定まで、公式資料をもとに整理します。
【まず結論】「雀右衛門」は誰を指す?読み方と現在のプロフィール

「雀右衛門」は、特定の一人だけを指す固有名詞ではなく、歌舞伎俳優が代々受け継いできた名跡(みょうせき)です。現在の当代は五代目中村雀右衛門で、歌舞伎の伝統的な女方芸を継承する俳優として活動しています。
伝統歌舞伎保存会の公式プロフィールによると、五代目の本名は青木貞幸(あおき・さだゆき)。1955年11月20日に東京都で生まれ、四代目中村雀右衛門の次男として育ちました。2026年10月時点では70歳です。
基本情報を整理すると、次のとおりです。
- 芸名:五代目中村雀右衛門
- 読み方:なかむら・じゃくえもん
- 本名:青木貞幸
- 生年月日:1955年11月20日
- 屋号:京屋(きょうや)
- 主な芸域:女方。時代物、世話物、舞踊など幅広い役柄を演じる
- 襲名:2016年3月、歌舞伎座で五代目中村雀右衛門を襲名
検索時に気をつけたいのは、名前に付く「四代目」「五代目」の違いです。歌舞伎では、先代が築いた芸や名声を受け継ぐ際に名跡を襲名します。同じ名前であっても、本人の生年月日や芸歴、受賞歴、出演舞台はそれぞれ異なります。
【経歴を詳しく】七代目中村芝雀から五代目雀右衛門への襲名
五代目中村雀右衛門は、幼少期から歌舞伎の舞台に立ち、長い芸歴を重ねてきました。伝統歌舞伎保存会の芸歴資料によると、初舞台は1961年2月の歌舞伎座。『一口剣』で村の子広松を演じ、大谷広松を名乗りました。
大きな転機となったのは1964年9月です。歌舞伎座で『妹背山婦女庭訓』のおひろを演じ、七代目中村芝雀を襲名しました。その後、芝雀として半世紀以上にわたって経験を積み、2016年3月、父が名乗った雀右衛門の名跡を継ぎました。
襲名披露は2016年3月の歌舞伎座を皮切りに、6月の博多座、7月の大阪松竹座、12月の京都・南座で行われました。歌舞伎公式情報サイト「歌舞伎美人」の襲名発表では、四代目の次男である芝雀が五代目を襲名することが公表されています。
襲名時の演目にも、名跡の継承という意味が込められていました。『鎌倉三代記』の時姫、『祇園祭礼信仰記』の金閣寺に登場する雪姫は、2016年3月の襲名披露で五代目が勤めた役です。いずれも女方の技量が問われる役柄であり、名跡を継いだ後の芸を示す重要な舞台となりました。
五代目の歩みを理解するうえでは、襲名だけでなく、芝雀時代の蓄積にも目を向ける必要があります。名跡が変わったからといって、それまでの芸歴が途切れるわけではありません。長年培った技術を土台に、雀右衛門の名にふさわしい芸を磨いていくことが、襲名の意味の一つです。
【歴代の名跡を比較】初代から五代目まで何が違う?
中村雀右衛門の名跡は、幕末から現代まで受け継がれてきました。国立劇場の「文化デジタルライブラリー」や松竹大谷図書館の資料では、初代から二代目までは立役などを中心とし、三代目以降は女方としての活躍が目立つようになった歴史が紹介されています。
歴代の襲名年と特徴を整理すると、次のようになります。
| 代数 | 襲名年 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 初代 | 1851年(嘉永4年) | 幕末の上方歌舞伎で活躍。敵役を得意とした |
| 二代目 | 1875年(明治8年) | 立役や敵役など、幅広い役柄で活躍 |
| 三代目 | 1917年(大正6年) | 女方として人気を集め、赤姫や娘役などを得意とした |
| 四代目 | 1964年(昭和39年) | 華やかな芸風を築いた名女方。1991年に人間国宝に認定 |
| 五代目 | 2016年(平成28年) | 七代目中村芝雀から襲名。古典の継承と多彩な役柄に取り組む |
初代は1806年生まれで、1851年に雀右衛門を襲名したと伝えられています。二代目は1875年に襲名し、三代目は1917年にその名を継ぎました。三代目は美しい容姿と女方としての芸で知られ、後世の名跡のイメージを形づくる存在となりました。
四代目が襲名したのは1964年。五代目の芝雀襲名と同じ年ですが、両者は別の人物です。四代目はすでに別の芸名で活動した後、雀右衛門を名乗りました。一方、五代目は七代目中村芝雀として活動した後、2016年に父の名跡を継いでいます。
こうした歴史を知ると、「雀右衛門」という名前が単なる芸名ではなく、時代ごとの俳優が芸を受け継ぎ、更新してきた文化的な財産であることが分かります。
【父・四代目との違い】人間国宝、紫綬褒章、受賞歴を整理
五代目を調べる読者が特に混同しやすいのが、父である四代目中村雀右衛門の経歴です。四代目は1920年8月20日生まれ、本名は青木清治(あおき・きよはる)。2012年2月23日に亡くなりました。
日本俳優協会の公式プロフィールによると、四代目は1927年に大谷廣太郎を名乗って初舞台を踏み、1948年には七代目大谷友右衛門を襲名。その後、1964年に四代目中村雀右衛門を襲名しました。1991年には重要無形文化財「歌舞伎」の保持者として個人認定を受け、いわゆる人間国宝となっています。
一方、五代目は1955年生まれで、2016年に襲名した当代です。日本芸術院賞や紫綬褒章などの受賞歴がありますが、父の個人認定による人間国宝という肩書と混同してはいけません。五代目について伝統歌舞伎保存会の資料に記載される重要無形文化財の総合認定は、個人認定とは区別されるものです。
受賞歴にも違いがあります。四代目は1984年に紫綬褒章を受章し、1991年に人間国宝に認定、2004年には文化勲章を受章しました。五代目は2008年に日本芸術院賞、2010年に紫綬褒章を受章し、2018年には第25回読売演劇大賞の優秀男優賞を受賞しています。
親子を見分ける際は、名前だけで判断せず、次の3点を確認するのが確実です。第一に生年月日、第二に襲名年、第三に人間国宝への認定時期です。とりわけ「雀右衛門が人間国宝」という情報は、四代目について述べたものか、五代目について述べたものかを確認する必要があります。
【女方としての芸風と評判】古典の格調と世話物のリアリズム
五代目の芸風について、公式プロフィールは、時代物では古典をきっちりと演じ、世話物では現代的なリアリズムも織り交ぜる点を特徴として挙げています。町娘の可憐さ、芸者の上品な色香、武家の奥方の品格など、役柄によって異なる女性像を描き分けることが持ち味です。
歌舞伎の女方は、女性の姿を再現するだけの役ではありません。型、姿勢、視線、手の動き、歩き方、声の調子などを組み合わせ、人物の身分や感情、置かれた状況を舞台上で表現します。観客は、こうした約束事を通して、登場人物の性格や心の変化を読み取ります。
例えば、姫君を演じる場合には、身分の高さや気品を感じさせる所作が大切です。町娘や商家の女房では、より日常に近い動きや感情表現が重要になります。同じ女方であっても、役の立場が変われば表現の組み立ても変わるのです。
五代目の芸域は、こうした古典的な型を大切にしながら、世話物では人物の生活感や感情の動きも伝えるところにあります。四代目の華やかな芸風を受け継ぐだけでなく、自身の長い舞台経験を通じて役柄を描き分けてきた点が、当代の見どころです。
舞台を観る際は、単に「美しい女方かどうか」だけで評価するのではなく、役柄ごとの所作の違いや、感情を表す間、相手役との呼吸にも注目すると、芸の細やかさが伝わりやすくなります。
【2026年最新公演情報】歌舞伎座と京都・南座への出演予定
五代目中村雀右衛門の公式サイトに掲載されている2026年の公演情報では、11月に歌舞伎座、12月に京都・南座への出演が案内されています。2026年10月下旬時点で、これから観劇を検討する人にとって押さえておきたい予定です。
2026年11月:歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」
公演期間は2026年11月1日から25日まで。休演日は9日と17日です。五代目は夜の部のBプロに出演し、通し狂言『仮名手本忠臣蔵』六段目「与市兵衛内勘平腹切の場」で一文字屋お才を勤める予定です。夜の部の開演は午後4時30分と案内されています。
2026年12月:京都・南座「吉例顔見世興行」
公演期間は2026年12月1日から24日まで。休演日は9日と17日です。夜の部では、三代目尾上辰之助の襲名披露狂言『新版歌祭文(野崎村)』で後家お常を勤めるほか、『木挽町のあだ討ち』では久蔵女房与根を演じる予定です。夜の部の開演は午後4時とされています。なお、12月18日の夜の部は貸切の案内が掲載されています。
公演日程や配役は変更される場合があります。観劇を予定している場合は、五代目の公式サイトや各劇場の最新の公演案内で、上演日、休演日、演目、出演者、チケットの販売状況を確認してください。特に歌舞伎は公演ごとに演目や配役が異なるため、俳優名だけでなく、どの部のどの演目に出演するのかを確認することが大切です。
【屋号・家紋・受賞歴】京屋と向い雀に込められた伝統
五代目中村雀右衛門の屋号は京屋です。屋号は歌舞伎俳優の家や系統を示す呼称で、舞台や劇場での掛け声などにも関わる、歌舞伎独特の伝統の一つです。
五代目の公式プロフィールには、家紋として京屋結び、向い雀が掲載されています。「向い雀」は雀右衛門の名を調べる際に目にすることの多い意匠です。ただし、屋号と家紋は別のものです。京屋は屋号、京屋結びや向い雀は家紋として扱われる意匠であり、同じ意味ではありません。
受賞歴を見ると、五代目が長年にわたって舞台で評価を積み重ねてきたことが分かります。主なものには、2008年の日本芸術院賞、2010年の紫綬褒章、2018年の読売演劇大賞優秀男優賞があります。これらは、四代目が受章した紫綬褒章や文化勲章、人間国宝の認定とは、人物と時期を区別して理解する必要があります。
名跡、屋号、家紋、受賞歴は、それぞれ異なる情報です。歌舞伎の人物紹介を読む際には、名前の代数だけでなく、屋号や本名、襲名年を合わせて確認することで、同名の俳優を取り違えにくくなります。
【雀右衛門】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:中村雀右衛門の読み方は何ですか?
A1:五代目中村雀右衛門は「なかむら・じゃくえもん」と読みます。「雀右衛門」は歌舞伎で代々受け継がれてきた名跡です。
Q2:五代目中村雀右衛門は、いつ中村芝雀から襲名しましたか?
A2:2016年3月、歌舞伎座で五代目中村雀右衛門を襲名しました。それ以前は七代目中村芝雀として活動していました。
Q3:四代目中村雀右衛門は人間国宝ですか?
A3:はい。四代目は1991年に重要無形文化財「歌舞伎」の保持者として個人認定を受け、人間国宝となりました。五代目とは別の人物です。
Q4:五代目中村雀右衛門は2026年にどこで公演しますか?
A4:公式サイトには、11月の歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」と、12月の京都・南座「吉例顔見世興行」への出演予定が掲載されています。日程や配役は最新の公式案内で確認してください。
Q5:雀右衛門の屋号と家紋は何ですか?
A5:屋号は京屋です。五代目の公式プロフィールには、家紋として京屋結びと向い雀が掲載されています。
「雀右衛門」は、幕末から現代まで続く歌舞伎の名跡です。2026年現在の当代は五代目中村雀右衛門で、七代目中村芝雀として長年舞台に立った後、2016年に父・四代目の名跡を継ぎました。時代物の格調ある演技から世話物の生活感に富む表現まで、幅広い女方芸を受け継いでいます。
父の四代目は2012年に亡くなり、1991年に人間国宝に認定された名女方です。五代目の受賞歴や芸歴と混同しないためには、代数、生年月日、襲名年の3点を確認するのが確実です。
また、2026年の公演を観るなら、11月の歌舞伎座と12月の南座の予定を確認し、演目や配役、上演日まで把握しておくと観劇計画を立てやすくなります。名前の由来や歴代の歩みを知ってから舞台に触れれば、雀右衛門という名跡に受け継がれてきた芸の奥行きも、より鮮明に感じられるはずです。