外国人も日本で生活保護を受けられるのか。永住者や定住者にはどのような条件があるのか。そして、外国人世帯の受給が「4万7332世帯」とされる数字は、実際に何を意味するのか。制度をめぐる議論では、法律上の受給権と行政措置による保護、外国人世帯の統計と外国人個人の受給者数が混同されやすい。
2026年9月9日には、外国人の生活保護申請をめぐる訴訟で最高裁判所第二小法廷が上告を棄却した。加えて、厚生労働省が公表した令和6年度の被保護者調査では、世帯主が日本国籍を持たない被保護世帯は月平均4万7332世帯とされている。判決の意味と最新統計を切り分けると、外国人の生活保護制度がどこまで認められ、どこに課題が残るのかが見えてくる。
【制度の核心】外国人の生活保護は法律上の権利か、行政措置か

外国人の生活保護を理解するうえで、最初に押さえたいのは、生活保護法に基づく受給権と、行政措置によって実施される保護は法的な位置づけが異なるという点だ。
生活保護法第1条は、生活に困窮する「すべての国民」に必要な保護を行うことを定めている。同法第2条も、要件を満たす国民に対して保護を受ける権利を保障する仕組みを採用している。2014年7月18日の最高裁判決では、ここでいう「国民」は日本国民を意味し、外国人は生活保護法に基づく保護の対象に含まれないとの判断が示された。
ただし、この判断は、外国人に対する生活保護に準じた保護を全面的に禁止したものではない。一定の外国人に対して自治体が保護を行う行政措置は、判決後も継続している。厚生労働省も、生活保護法の適用対象と、行政措置による事実上の保護を区別して制度を説明している。
つまり、「外国人には生活保護を受ける権利がある」と一律に説明するのも、「外国人への生活保護は違法」と断定するのも正確ではない。法律上の受給権が認められるかという問題と、行政上の仕組みによって実際に保護を受けられるかという問題は、分けて考える必要がある。
【制度の経緯】1954年の通知から2014年最高裁判決まで
外国人への生活保護に準じた保護は、現在の制度が突然生まれたものではない。出発点は、1954年に旧厚生省が発出した「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という通知にある。
この通知は、外国人を生活保護法の適用対象としないことを前提に、日本国民に対する保護の決定や実施の取扱いに準じて、必要と認められる保護を行うという仕組みを示した。その後、対象となる外国人の範囲について行政上の取扱いが整理され、永住者や定住者など、国内での活動に制限を受けない一定の在留資格を持つ人が中心となった。
制度の背景には、外国人の生活困窮に対応する人道上の必要性と、法律によって保障される権利の範囲をどう定めるかという問題がある。1981年には難民条約などへの加入に伴う国内法整備が行われ、国民年金法などでは国籍要件が撤廃された。一方、生活保護法については、1954年の通知による運用がすでに存在していたこともあり、同様の法改正は行われなかった。この経緯は、2026年の最高裁決定に付された補足意見でも触れられている。
その後、2014年7月18日の最高裁判決は、外国人は生活保護法に基づく受給権を有しないと判断した。同時に、行政庁の通知などに基づく行政措置によって、外国人が事実上の保護対象となることまで否定したわけではない。
このため、2014年の判決を「外国人への生活保護をすべて違法とした判決」と理解するのは誤りだ。判決が明確にしたのは、法律上の受給権の範囲であり、行政措置による保護の仕組みそのものを廃止する判断ではなかった。
【2026年9月の最高裁決定】上告棄却で何が決まり、何が決まらなかったのか
2026年9月9日、最高裁判所第二小法廷は、外国人の生活保護申請をめぐる訴訟で上告を棄却する決定を出した。事件は、医療機関での治療を必要とする事情から「特定活動」の在留資格で日本に滞在していた外国人が、生活保護の申請を却下されたことを争ったものだ。
申立人は、生活保護法に基づく保護の対象から外国人を除外する扱いについて、憲法第25条の生存権や第14条の法の下の平等との関係で問題があるとして、申請却下の取消しなどを求めた。しかし、一審と二審はいずれも請求を認めず、最高裁への上告も棄却された。
ここで重要なのは、最高裁の多数意見が、外国人を生活保護法の対象外とする規定の合憲性について実体的な判断を示したわけではないという点だ。最高裁の決定理由は、上告理由が民事訴訟法第312条第1項または第2項に定める上告の事由に該当しないというものだった。したがって、上告棄却をもって「最高裁が外国人を対象外とする制度の合憲性を改めて認定した」と解釈することはできない。
一方、今回の決定によって、この訴訟では一審・二審の判断が確定した。個別の申請者に関する法的な帰結が生じたことと、外国人の生活保護制度全体について憲法上の問題が最終的に解決されたことは別である。
決定には三浦守裁判官の反対意見も付された。三浦裁判官は、少なくとも医療を受ける必要がある特定活動の在留資格を持つ外国人について、生活保護法の対象から除外する規定は憲法第25条および第14条第1項に違反して無効とすべきだとの立場を示した。また、高須順一裁判官の補足意見は、1954年の通知や社会保障制度の歴史的経緯を踏まえて議論する必要性を指摘している。
2026年9月の決定が示したのは、外国人の生活保護をめぐる法的な対立がすべて解消されたということではない。法律上の受給権、行政措置の対象範囲、医療など特別な事情を抱える人への保護をどう位置づけるかという課題は、引き続き残されている。
【最新統計】外国人世帯4万7332世帯の実態と数字の読み方
外国人の生活保護をめぐる議論では、受給世帯の数が大きく取り上げられることがある。厚生労働省の「外国人の生活保護に関するよくあるご意見・ご質問」と令和6年度の被保護者調査によると、2024年度の月平均で、世帯主が日本国籍を有しない被保護世帯は4万7332世帯だった。
同じ統計で、生活保護を受ける全世帯は165万674世帯。両者を比較すると、外国人世帯に該当する区分の割合は約2.9%となる。世帯主が日本国籍を有しない世帯に属する被保護人員数は6万4993人で、全体に占める割合を機械的に算出すると約3.2%だ。
| 統計項目 | 数値 | 読み取る際の注意点 |
|---|---|---|
| 外国人世帯に該当する被保護世帯数 | 4万7332世帯 | 世帯主が日本国籍を有しない世帯の月平均 |
| 同区分の被保護人員数 | 6万4993人 | 世帯内の日本人配偶者や子どもなども含まれ得る |
| 被保護世帯の総数 | 165万674世帯 | 2024年度の月平均 |
| 全被保護世帯に占める割合 | 約2.9% | 世帯主の国籍を基準にした割合 |
| 全被保護人員に占める割合 | 約3.2% | 外国籍の人だけを数えた割合ではない |
| 2012年度の同区分の被保護人員数 | 7万4736人 | 2024年度の6万4993人と比べ、増加傾向は見られない |
この表を読むうえで、最も大切なのは、統計上の区分が「外国人の受給者だけ」を表しているわけではないことだ。生活保護は世帯単位で要否を判断する制度であり、世帯主が外国籍であっても、世帯員に日本国籍の配偶者や子どもがいる場合がある。反対に、日本人が世帯主で外国籍の家族がいる場合、その家族を外国人世帯として単純に切り出すこともできない。
そのため、4万7332世帯という数字を、そのまま外国人個人の受給者数と読み替えるのは適切ではない。世帯数、人員数、外国籍の受給者数はそれぞれ異なる指標であり、統計の定義を確認しなければ実態を正しく把握できない。
また、2012年度には同区分の被保護人員数が7万4736人だったのに対し、2024年度は6万4993人だった。厚生労働省は、これらの数字から外国人世帯に属する被保護人員数が年々増加している傾向は見られないと説明している。少なくとも、この統計を根拠に「外国人の生活保護受給者が一貫して急増している」と断定することはできない。
【受給条件】永住者・定住者・特別永住者は対象になるのか
外国人が生活保護に準じた保護を受けられるかどうかは、在留資格と生活状況を分けて確認する必要がある。厚生労働省の説明では、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住者や定住者などについて、人道上の観点から行政措置による保護を行っている。
主な対象となるのは、次のような在留資格や身分を持つ人だ。
- 永住者:永住の在留資格を持ち、行政措置の対象要件を満たす人。
- 定住者:定住者の在留資格を持ち、対象要件を満たす人。
- 日本人の配偶者等・永住者の配偶者等:該当する在留資格を持ち、対象要件を満たす人。
- 特別永住者:特例法に基づく特別永住者としての資格を持つ人。
- 認定難民:難民認定を受けている人。
このほか、「特定活動」の在留資格を持つ人などについても、指定された活動の内容や個別事情によって対象となるケースがある。ただし、特定活動であれば一律に認められるわけではない。2026年9月の最高裁決定で争われた事案も、医療を受けるための活動が指定された特定活動の在留資格を持つ人について、行政措置の対象要件が問題となったものだった。
反対に、留学や就労などの在留資格を持っているだけで、生活保護に準じた保護の対象になるわけではない。一般に、国内での活動に制限がある在留資格は、通常の行政措置による保護の対象になりにくい。個別の在留資格や指定内容によって判断が異なる場合もあるため、在留資格の名称だけで最終的な結論を出すことはできない。
加えて、対象となる在留資格を持っていることと、実際に保護を受けられることも別問題だ。保護の必要性は、世帯の収入や資産、就労能力、利用できる制度や扶養などの事情を踏まえて判断される。厚生労働省は、外国人に対する保護でも、資産や能力などを最低限度の生活の維持に活用するという基本的な取扱いは日本人の場合と変わらないと説明している。
したがって、「永住者なら無条件で受給できる」「外国人なら日本人より優先される」という理解は、いずれも制度の実態とは異なる。
【申請却下の理由】受給率や国籍別データで誤解しやすい点
外国人の生活保護申請が却下される理由は、一つではない。制度上の対象範囲と、世帯の生活状況に関する審査を分けて考えることが重要だ。
第一に、在留資格などが行政措置の対象要件に該当しない場合。外国人は生活保護法上の受給権を持たないため、法律に基づく申請と、通知に基づく行政措置としての保護は別々に判断される。2026年の訴訟でも、生活保護法上の申請が認められなかったことに加え、行政措置としての保護についても、申立人の在留資格が要件に該当しないとされた。
第二に、生活保護の必要性が認められない場合。対象となる在留資格があっても、世帯の収入や資産などから保護の必要性が認められなければ、保護の開始に至らないことがある。外国人に対する保護でも、生活保護制度の基本的な要否判定の考え方は変わらない。
第三に、在留資格の個別事情や必要な確認が問題となる場合。特定活動など、個別の指定内容を踏まえた判断が必要なケースでは、在留資格の名称だけでは対象となるかどうかを決められない。申請先の福祉事務所で、在留資格や生活状況について確認する必要がある。
もう一つ注意したいのが、外国人の生活保護受給率と国籍別データの読み方だ。厚生労働省は、世帯単位で保護を実施していることなどから、外国人だけを切り出した受給者数は把握していないと説明している。このため、在留外国人全体を分母にして、世帯主が外国籍の世帯に属する被保護人員数を分子に置いたとしても、それは外国人個人の正確な受給率にはならない。
国籍別の数字についても同じ注意が必要だ。厚生労働省が示した例では、世帯主が中国国籍である被保護世帯の人員数は、2018年度の9059人から2023年度の9471人へと増加した。差は412人であり、5年間で2倍になったという説明とは一致しない。ただし、これも中国籍の受給者だけを数えた数字ではなく、中国国籍の世帯主がいる世帯に属する人員数である。
つまり、外国人の生活保護をめぐる数字を検証するときは、何を数えた数字なのか、いつのデータなのか、分母と分子が同じ対象を指しているのかを確認することが欠かせない。世帯主の国籍に基づく統計から、外国人個人の受給率や国籍ごとの受給傾向をそのまま導き出すことはできない。
【生活保護外国人】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:外国人は生活保護を受けること自体が違法なのですか?
A1:外国人は原則として生活保護法上の受給権を持ちませんが、一定の在留資格を持つ人には、1954年の通知に基づく行政措置として保護が行われています。したがって、外国人への保護が一律に違法という理解は正確ではありません。
Q2:2026年9月の最高裁決定で外国人の生活保護は禁止されたのですか?
A2:いいえ。最高裁は個別の訴訟で上告を棄却しましたが、多数意見は外国人を対象外とする規定の合憲性そのものを判断していません。一方、この訴訟では一審・二審の判断が確定しており、反対意見も付されています。
Q3:外国人世帯の4万7332世帯は、外国人の受給者が4万7332人いるという意味ですか?
A3:違います。4万7332は、令和6年度の月平均で、世帯主が日本国籍を有しない被保護世帯の数です。同区分の被保護人員数は6万4993人ですが、世帯内の日本人も含まれ得るため、外国籍の受給者数と同じではありません。
外国人の生活保護をめぐる問題は、「受給できるか、できないか」という単純な二択では整理できない。生活保護法上の受給権は日本国民を対象としている一方、永住者や定住者、特別永住者、認定難民など一定の外国人には、人道上の観点から行政措置による保護が実施されている。
2014年の最高裁判決は、外国人が生活保護法に基づく受給権を持たないことを明確にした。しかし、行政措置による保護まで否定したわけではない。2026年9月9日の上告棄却についても、最高裁の多数意見が外国人を対象外とする規定の合憲性を改めて判断したわけではないという点を押さえる必要がある。
統計については、令和6年度の月平均で4万7332世帯という数字が公表されているが、これは外国籍の受給者だけを抽出したものではない。外国人の受給率や国籍別の実態を正確に評価するには、世帯主の国籍に基づく集計と、外国籍の個人に関する情報を混同しないことが大切だ。
今後の制度を考えるうえで問われるのは、生活に困窮する人への人道的な対応と、法律上の権利・行政措置の境界をどう整理するかという問題である。対象となる在留資格の明確化、統計の分かりやすい公表、特別な事情を抱える人への対応など、制度の透明性を高める余地は残されている。
外国人の生活保護について情報を見極める際は、①法律上の受給権と行政措置を区別する、②最高裁決定の主文と判断理由を確認する、③統計の対象と集計方法を確かめる。この3点を押さえることが、制度の実態を正しく理解するための基本となる。